臨床体験記から

切迫流産の治療における体験記(補瀉の手技による陰陽の調和)
安産のお話の中に臨床例として載せていますが、この体験を通して補瀉手技の大切さを再認識させられました。この体験から少しお話します。

「主訴」妊娠6ヶ月で子宮腔が開いて切迫流産と診断される。
「問診」妊娠初期から少し長く立っていると腰が痛くなり、横になっていることが多かった。
妊娠5ヶ月に入った頃から更に腰が痛くなり、体調も悪くあまり動けなくなってしまう。産婦人科で子宮腔が開き始めていることを告げられ、投薬を受けるが止めることが出来ず、更に体調が悪化し一日寝たきりの状態となっていた。
「切診」 手足共に冷え、腹部は硬い状態。
「脉状」 浮 数 実(陽の脉は弦を帯びている)
「比較脉診・証決定」 腎虚脾虚の相克調整

「本治法」 右適応側 右復溜・陰谷 左陰陵泉に補法  
陽経の処理 すべて弦実に応ずる瀉法 右偏歴 豊隆  左光明 飛陽  最後に右外関
「標治法」 天柱 脊際(身中 至陽 命門)
太谿に施灸
「使用鍼」 補法 銀1寸2番  瀉法 ステンレス1寸2番  標治法 銀1寸3番
「臨床のポイント」
1.左手尺中の脉のみが硬く沈みこんでいるため、この脉を浮かすことが大切です。そのため刺鍼に一工夫必要となります。
2.陽経に浮いている実邪(弦実)を強い目的意識を持って瀉法をすることが大切です。
この邪実をうまく瀉すことで和かんを得た良い脉状になります。その結果、体に温かみが出、唇に赤みが出、言葉に力が出てきました。
治療前とは大きな違いとなりました。
3.症状から怖がることなく、刺鍼時にそれぞれの目的をしっかり持つことが大切です。


乳児の股関節脱臼における体験記(鍉鍼による治療)
生後7ヶ月の男の子で医師から股関節脱臼の疑いがあるとの診断でした。鍼治療で何とか変えられませんかとの両親からの依頼でした。このご家族は御両親と子供3人の5人家族ですが、この子供さんで全員が当院の患者さんとなりました。
鍉鍼を使っての約4ヶ月程度の治療期間で完治となった症例です。

「主訴」 股関節脱臼
「問診」 医師の診断により股関節脱臼の疑いがあり、まだ生後7ヶ月程度なので様子を見ましょう。ただ、1歳になって治っていなければギブスをすることになりますよ、と言われました。
「切診」 下肢の左右差は殆ど感じられないが、やや開きが大きい感じを受ける。
「比較脉診・証決定」 脾虚肝虚の相克調整
「使用鍼」 金鍉鍼

「本治法」 左太淵・三陰交、右レイコウに補法
陽経の処理として胃経・胆経に虚性の邪があり、流注に逆らって手掌ですばやく数回軽擦。
「標治法」 脊柱の左右を手掌で頚部から腰部にかけてゆっくりと数回軽擦。
左右の鼡径部の反応部に鍉鍼を使用。
「治療経過」 このような治療を約4ヶ月継続。
1歳になり約1ヶ月ほど両下肢にギブスをつけましたが、医師もびっくりするほどの回復振りで「こんなに早く治った例ははじめてです」とのことでした。

「臨床のポイント」 乳幼児はまだ経絡が完全に出来上がっていないといわれていますが、あえて鍉鍼を使って補法を行っています。私のこだわりですが、このやり方で来院する乳幼児を治療しています。
ドーゼに注意し手早く治療を終えることが大切です。また、股関節脱臼ですのでムノ部の治療も大切です。


乳児の顔面部の湿疹に対する体験記(先天の原気向上による消失)
時折生後間もない乳児の湿疹の治療をさせていただく機会がありますが、大多数が先天の原気を上回る多量の母乳を取り、その反応が顔面の胃経上に湿疹として現れるケースです。
この事情を知らないため病院へ行き、抗生物質を投与され続けても改善しないケースが多いようです。少しでも参考にしていただければと思います。

「治療対象」 生後90日くらいまでの乳児。
「主訴」   顔面の湿疹
「治療法」  先天の原気の関係で“腎経”の補法(私は鍉鍼で太谿穴を使いますが、手掌で経に随ってゆっくりと軽擦することもOK)
腹部を時計周りでゆっくりと軽擦する。
背部は頚部から腰部に向かってゆっくりと軽擦する。

「臨床のポイント」 母乳の与えすぎですので授乳間隔をあけ、泣いたらあげるということはしないように指導することが大切です。また、湿疹の出来る訳を説明してあげることも大切です。
「腎と脾・胃」とのバランスの崩れですから、これを調整することがポイントとなるでしょう。
これだけで簡単に治癒させることが出来ますので敬遠せずに治療に取り組んでみてください。